高木敏雄『日本伝説集』を読み始めたのだけど、冒頭からいきなりこうきた。
昔、天地開闢のはじめ、天照大神が、常陸国筑波山の上に、天降りましまして、琴を弾ぜられると、東の海の波が、其音に感じて、山の麓にまで押し寄せてきた。
其波が、地面の凹んだところに、残つたのが、後の霞ヶ浦である。波とつく山と云ふ意味で、筑波山と云ふ名は出来たのである、と土地の者が云つている。
簡単に言うと「筑波山まで津波が来ました」というお話に読める。
まさかそんな内陸まで? とも思うけれども、霞ヶ浦はかつては内海だったわけだし、あり得ない話ではない。むしろ、この今となっては、ごく普通に昔の出来事を反映したお話のような気がしてくる。
ちなみに、「筑波山」「霞ヶ浦」という地名には、どうやらいろいろと謎が多いようだ。生半可な知識でどうこう言えるものではないのだけど、名前の由来は於くとしても、こういう伝承があったということは事実らしい。
この『日本伝説集』が編まれたのは大正時代。新聞広告でもって民間の説話を募集したものとある。
現地で直接採集したわけではないのがちょっと気になるところだけど、「遠野物語」と同時期では、まだ民俗学が確立していないわけである。説話集といったものなら後続に類書は多いが、本書は「読み物」として整理されていく前のもの、という意味でなかなか貴重な資料となっているようだ。
文庫に入ったのは初らしい。
これまで埋もれていたのは、その、整理のされてなさ*1故なのだろう。
- 作者: 高木敏雄
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2010/08/09
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*1:お話としては整理されていないが、きちんと分類されている。