遠近法ノート

本好きのデザイナー、西岡裕二の日記帳なのです。デザインと読書について書くはず。

母との(おそらく最後の)面会にて。

「ここらへんにカーテンが見えるんよ」
と言いながら、母は手で空中をつかんでみせる。

ん?

「つかめるような気がするんやけど、つかめんのよ」
母はしきりに手を前に伸ばしている。

母さん……もしかしてそれって壁紙錯視*1なんじゃね? モンゴメリ*2の「可愛いエミリー」に出てくるやつ*3

「ほじゃけど、瞬きしたら消えてしまうんよ。不思議やねえ」

うんうん。壁紙錯視だねこりゃ。

「そこにあるコップも手に持ったと思たけど消えてしもたよ」

…………。

「あの世ゆうたらこんなんやろぅかなぁ……」

母さん……(´;ω;`)ブワッ

*1:壁紙錯視とは、要するに立体視である。縦方向のカーテンのひだを長時間見ているうちに眼の輻輳がずれ、3D効果をもたらしたのであろう。

*2:いわずと知れた「赤毛のアン」の作者である。

*3:詳しくは『ステレオ感覚のメディア史』を参照。