遠近法ノート

本好きのデザイナー、西岡裕二の日記帳なのです。デザインと読書について書くはず。

『空の境界』ようやく読了しました。

いや、面白かったですよ。
笠井潔さんの解説も良いです。上巻では80年代伝奇小説の盛衰について。『空の境界』の内容にどう関係するんだろうと思ってしまいましたが、下巻では見事に繋がります。
本当に、すごく納得できてしまった。名解説だと思います。
以下はちょっと覚え書き。
80年代伝奇小説は、天皇を想像的中心とした都の権力とまつろわぬ民の闘いを描いた。中心と周縁、日常と非日常が対立する構図は、豊かで凡庸な社会に生きつつも、それだからこそ絶対的な差異と中心性の復活を無意識に望む大衆に支持された。
しかし90年代になると人は、豊かで凡庸な社会(ポストモダンが進行した社会)に適応しはじめる。さらに想像的中心は失われ、対立図式を失った伝奇小説は失速する*1。オカルティズム(超越性への欲望)の方向も、オウム真理教事件により可能性を絶たれてしまう。
空の境界』では、80年代伝奇の構図が、いわば逆転されている。
空の境界 上 (講談社ノベルス) 空の境界 下 (講談社ノベルス)

*1:思えば、それ以前に『帝都物語』が終わらない昭和を描いたのは必然だったのだ。